観葉植物の空気浄化機能とその実用化
2026.02.26
1. はじめに
現代人のライフスタイルは,2019年の世界的なCOVID-19のまん延で大きく変容し,外出の自粛や在宅勤務などによって,自動車等の移動空間を含めた平均屋内滞在時間は生活時間全体の80~90%に増加し,これまで以上に清浄な室内空気質(IAQ)が要求されるようになりました。その空気汚染防止対策には,マスク装着などの個別対策の他,積極的な換気の促進が推奨されてきましたが,窓の開閉による自然換気や空調換気設備による機械換気能力には限界があり,必ずしも十分な換気量を確保できない場合があります。そのため,換気以外の感染症対策としてエアクリーナーやウイルスの殺菌・除菌対策などが必要になります。
弊社は,2000年頃からNASAの研究(1989)に端を発する観葉植物の空気浄化研究に触発されて,これまで培ってきた先端的な植物生産・管理技術をベースに「植物のちから」を利用した新しい空気浄化装置(特許取得,特開2022-132235)を開発し,バイフィリア緑化研究所内の大型チャンバーを用いた実験により空気浄化効果を検証しました。その結果,本装置はVOC,浮遊粉塵,CO2,浮遊微生物などの汚染空気物質に対する高い浄化効果を有することを確認しました。このコラムでは,それらの実証試験で得られた結果の一部を紹介します。
2. 植物の空気浄化機構
植物の空気汚染物質の浄化機能は,①葉(気孔)による吸収と代謝,②根圏微生物による分解(菌根菌,DSE等),③植物の蒸散作用による空気循環など,複雑なプロセスが絡むと言われています(図1)。
弊社は,これらの植物の空気浄化機能を最大限に利用するために,植物の根圏に効果的に室内空気を送り,根圏微生物による汚染物質の分解促進とリフレッシュされた空気を室内に戻す新しい空気循環システムを開発しました。本装置は,通気性能に優れたハイドロカルチャー用混合培地の使用を前提としています(図2)。植物プランターには小型DCファンが内蔵されており,この送風ファンにより強制的に室内汚染空気を混合培地に誘引し,空気中に含まれる揮発性有機化合物(VOC)などの化学汚染物質は培地の根圏微生物による吸収・分解に加えて多孔質材料である混合培地により吸着されます。次に,この空気に植物由来のエッセンシャルオイル等の香り成分を添加することによりウイルスなどの細菌やかびなどの浮遊真菌を殺菌・除菌・消臭して室内に戻す新しいタイプの空気浄化装置です。

図1 植物の空気浄化機能
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図2空気浄化装置の概要 (プラネット,2022)
3. 培地の通気性能と植物のVOC除去性能
住宅等の気密性能試験法の原理を応用した小型チャンバー(内法1.9×1.9×2.4 m,容積8.66 m3)を用いた弊社オリジナルの測定装置により,各種培地の通気係数を測定した結果,本システムで用いる多孔質人工混合培地の通気係数(通気しやすさ)は,赤玉土の約6.3倍,セラミスの約1.4倍となり,極めて高い通気性能を有しています(表1)。
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表1 各種培地の通気係数(扈ほか,2024)
光合成蒸散計測システムを用いて経時的に計測し,異なる培地の通気条件が光合成蒸散に及ぼす影響の解析を行った結果(表2),葉面積と暗呼吸速度は処理区間で有意差はありませんでした。PPFD 40 µmol photos m-2s-1における純光合成速度は無通気区に比べて通気区が30%高くなっています。蒸散速度,総コンダクタンスについて,PPFD 40 µmol photos m-2s-1における総コンダクタンスは無通気区に比べ通気区で35%高いが,そのほかの場合には明確な差異はありませんでした。このことは,培地通気処理は観葉植物の生長に悪影響を与えることがなく,根圏の酸素供給が改善され,生育が促進されることを示しています。

表2 異なる通気条件におけるエバーフレッシュの蒸散量と全コンダクタンス (扈ほか,2024)
弊社が開発した空気浄化装置(図2)の空気浄化性能に関する実証試験結果を紹介します。実験に用いた大型チャンバー(縦,横,高さ2×2×2.4m)は,大型の観葉植物が植栽された空気浄化装置をまるごとチャンバー内に設置して,汚染空気除去性能の測定が可能です。チャンバーには風量制御可能な換気装置,VOC等の汚染物質注入装置,空気ミキシング用のサーキュレータ―,CO2,ホルムアルデヒド,粉塵等の濃度測定器が設置してあります。実験条件として温湿度(23℃,34%)一定,チャンバー内照度を5,700lxとして,培地入りプランター(植物なし),植物有(吸引ファン停止)および植物有(吸引ファン稼働)の3条件におけるホルムアルデヒドおよびCO2の濃度変動を図3に示します。実験条件別の1時間毎のホルムアルデヒド除去率(初期状態の汚染質量に対する除去された汚染質量の割合[%])を同図に示します。植物有(吸引ファン稼働)の場合,実験開始後1時間経過時に除去率は50%を超え,4時間後に85%,8時間後に90%を超えています。経過時間2時間までの除去効果を相当換気回数(清浄空気供給率)に換算すると0.61回/hとなります。従って,植物有で吸引ファンを稼働した条件で高い空気浄化効果があることが分かりました。
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図3ホルムアルデヒド濃度変動(エバーフレッシュ)(プラネット,2022)
4. 植物の粉塵除去性能
一般的なエアクリーナーの粉塵除去性能を表すCADR(Clean Air Delivery Rate:クリーンエア供給率)は,米国家電製品協会(AHAM)が定めた「空気清浄機が1分間に供給するきれいな空気の量」を示す世界基準の指標です。数値が大きいほど汚染物質の除去性能が高く,部屋をより速く効率的に浄化できることを示します。本装置の実証試験の結果,3時間後の除去率77%,風量38m3/hは,CADR=30m3/hで,相当換気回数に換算すると3回/hになります。これは,家庭用エアクリーナー(CADR=100~400m3/h)に対して,約8~30%の性能になります。
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図4粉塵濃度の時間変化(エバーフレッシュ)(プラネット,2022)
5. 植物の部位別の汚染物質除去能
本装置において,主な除去能を有する部位は植物の地上部 (R_above) と地下部 (R_under) で,両部位によるホルムアルデヒドの全除去能R_systemの間には,R_system=R_above+R_underの関係があります。
ここで,R_systemは土壌通気条件下でシステムの全除去能,R_aboveは無通気条件下で植物の地上部による除去能,R_underは土壌通気条件下で植物の地下部による除去能です。S-1~5の地下部 (R_under)による除去能の平均値は2.90±0.45㎥h⁻¹,地上部 (R_above) の1.05±0.17㎥h⁻¹に比べて2.8倍に達し,システム全体の約73%を占めています(表3)。
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表3植物空気浄化装置における部位別除去能R[㎥h⁻¹](扈,2024)
6. まとめ
近年のバイオフィリック・デザインでは観葉植物がワーカーに与えるメンタルヘルスケアなどの健康やウェルビーイングなど,生理・心理的効果や集中力・プロダクティビティの向上の認知的効果などが注目を浴びていますが,観葉植物の植物生理学的効果には,①光合成・呼吸によるガス交換作用,②蒸散作用による微気候調整,③葉による空気汚染物質の吸収・代謝,④根圏(地下部)と微生物による分解作用,⑤培地通気性が植物生理に及ぼす極めて重要な効果があることも認識する必要があります。このような観葉植物の機能は,光合成・蒸散・根圏微生物との共生の生理機能を通じて,室内空気中のCO₂や揮発性有機化合物を低減し,微気候を調整する作用であり,特に近年は地下部と微生物の寄与が支配的であることが科学的に検証されています。
参考文献
1.株式会社プラネット:プレスリリース,2021年3月4日
2.扈佳勛:室内空気浄化機能を有する観葉植物栽培システムの開発,博士学位論文(豊橋技術科学大学),2024
3.扈佳勛,大林修一,松本博,井上隆信,高山 弘太郎:土壌通気を活用した植物空気浄化システムの開発と検証,日本建築学会環境系論文集 第89巻 第822号, 479-484,2024年8月
profile研究者のご紹介
バイオフィリア緑化研究所 所長松本 博
このエビデンス記事の監修は、(株)プラネット バイオフィリア緑化研究所 松本博氏によるものです。
(主な研究の一例)
室内環境モニタリングシステム、植物を用いた空気浄化システム、植物養生プランターの自動潅水・排水システム

(株)プラネット バイオフィリア緑化研究所
所長
松本 博
